インピンジメント症候群を改善する3つのストレッチと5つのリハビリ
- リハビリ
- 慢性不調
INDEX
「腕を持ち上げると肩が痛い」
「重い荷物を持ち上げようとすると肩に力が入らなくなる」
こんな症状が現れたら、もしかしたらそれはインピンジメント症候群かもしれません。
Consigliereらによる研究1では、肩の痛みで病院を受診した方の44~65%は、インピンジメント症候群と診断を受けるか、あるいはインピンジメントが原因で起こった怪我・不調である、とあります。それくらい、インピンジメントによる肩の痛みで悩んでいる方は多いです。
本記事では、インピンジメント症候群とは何か?現れる症状や起こるメカニズム・原因をお伝えしたあと、具体的にインピンジメント症候群による痛みを改善するためのストレッチとリハビリエクササイズをご紹介します。
すべてのストレッチとエクササイズは道具等を使わずにご自宅でできるものになりますので、ぜひ肩の痛みでお悩みの方や、インピンジメントかも?と考えている方、インピンジメントと診断を受けた方は、参考にしていただければと思います。
インピンジメント症候群とは?
インピンジメント症候群とは、肩に痛みが発生する怪我の1つで、前述した通り、肩の痛みの原因として一番多いものと言われています。
インピンジメント(impingement)とは、日本語にすると「衝突する」という意味になります。肩を動かした時に、肩関節を形成する骨と骨がぶつかってしまったり、肩関節の筋肉、腱、靭帯などが骨と骨に挟まれてしまうことで、炎症が起きたり、筋肉が損傷するなどして痛みが発生します。
野球をしている人が肩を痛めると「野球肩」と診断を受けることがありますが、「野球肩」の半分以上はインピンジメント症候群である、と言われます2。
また、水泳選手(特にクロールやバタフライを専門とする選手)にもインピンジメント症候群が多く発生することから「水泳肩」と呼ばれることもあります。
Coolsらの研究3には、野球や水泳以外でも、投球動作を行うアスリートの肩の痛みの原因として一番多いのがインピンジメント症候群であると示されています。
肩のインピンジメントになると現れる症状
肩のインピンジメントになると、肩の上げ下げの動作で痛みが発生します。中でも特徴的なのが「腕を持ち上げる途中の段階で痛みが発生する」という症状です。
具体的に言うと、腕を「60~120度」の角度に上げたとき、もしくは上から下ろしてきた時に強い痛みが発生します。腕を下ろした状態(=0度)では痛みがなく、また腕を上げきると(=150~180度)痛みが消えていきます(もしくは痛みが軽くなります)。
また、ある角度まで腕を上げた時に痛みとともに「引っかかり」が起こり、その角度以上に腕を上げることができなくなったり、肩や腕に力が入らなくなることもあります。腕を持ち上げた状態ではなくても、何かモノを持ち上げようとしたときにうまく力が入らないこともあります。
更に、損傷・炎症がひどくなると「夜間痛(夜になるとズキズキと痛みが発生する)」が起こる場合もあります。
ここまで上げた症状のうち、1つでも当てはまる場合はインピンジメント症候群の可能性があります。整形外科を受診して、ドクターの診察を受けることをオススメします。
インピンジメントを引き起こす4つの原因
肩のインピンジメントを引き起こす主な原因を4つお伝えします。
1)腕を上げる動作を頻繁に行う
インピンジメントになりやすい人としてまず挙げられるのが「肩よりも上に腕を上げる動作をたくさんする人」です。
野球のピッチャーは典型例です。腕を肩よりも高く上げてボールを投げる、という投球動作をたくさん行うことで、肩関節に繰り返しストレスがかかりインピンジメントが起きてしまいます。
「ボールを投げる」という動作を何度も行うと、肩関節を安定させるインナーマッスルが疲れてきます。インナーマッスルが疲労すると肩関節は不安定になるため、骨と骨の衝突や、筋肉の損傷が起こりやすくなってしまいます。
インピンジメントになるリスクが高い野球以外のスポーツとしては、バレーボールのアタック動作、水泳のクロールやバタフライ、テニスのサーブ、陸上競技のやり投げ、ハンドボールが挙げられます。
スポーツ以外でも、重いものを持ち上げる動作を繰り返す工事現場の職人さん、子供を持ち上げる等の動作が多い主婦の方や保育士さん、大工さんやペンキ屋さん、美容師といった職業の方も、インピンジメントになるリスクが高いことがわかっています3。
2)姿勢の悪さ
スポーツや職業以外の原因としては、「姿勢の悪さ」が挙げられます。悪い姿勢の1つとして「猫背姿勢」が挙げられますが、猫背姿勢は肩関節の可動域を減少させることがわかっています4。
猫背姿勢を続けることで胸の筋肉が硬くなり、胸の筋肉の肩さは肩甲骨の動きを悪くしてしまうため、更に肩関節の動きは悪くなります。
肩関節は非常に多くの筋肉や腱、靭帯などによって安定性と大きな動きを確保しているため、肩の動きが悪い状態で無理に動かしてしまうと、炎症が起きて腫れが発生し、その腫れによって骨と骨に挟まれやすくなり、痛みが発生することが多いです。
3)インナーマッスルとアウターマッスルの筋力のアンバランス
インナーマッスルとは骨に近い部分にある筋肉で、主に関節を安定させる働きがあります。対してアウターマッスルは皮膚に近い部分にある筋肉で、主に体を動かすために働きます。
インナーマッスルとアウターマッスルの筋力バランスが良いと、骨が安定した状態で関節がスムーズに動き、自分が持つ筋力をしっかりと発揮することができます。逆に筋力がアンバランスだと、骨が不安定になるため、関節を動かしたときに骨がブレるような動きをするため、インピンジメントが起こります。
4)加齢
最後に「加齢」もインピンジメントの原因として挙げられます。Garvingら5は、60歳前後がインピンジメントが一番起こりやすい年齢であると示しています。
長年の動きのクセによって骨に棘(トゲ)ができることがあります。また、過去に骨折した部位の骨が変形してしまうこともあり、そこに筋肉や腱が衝突して炎症が起こり、痛みが発生することがあります。
特に骨にトゲができてしまうと、肩を動かすたびに筋肉等がそのトゲに当たり、筋肉の一部が断裂してしまったり、なかなか痛みがとれない、ということがあります。
インピンジメントの対策・予防プロセス
肩に痛みが発生して整形外科を受診し、インピンジメント症候群と診断されたら、多くの場合は「保存療法」から治療が始まります。
保存療法とは「手術をしない治療法」のことを指し、まずは「痛みが発生する動作をなるべくしない」ことから始めます。腕を上げると痛い場合はなるべく上げない、重いものを持つと痛い場合は重いものを持たない、といったことをして、炎症をひどくしないようにします。
あまりに痛みが強い場合は、ドクターから痛み止めや炎症止めの薬が処方されたり、注射を打つことになるかもしれません。もし薬が処方された場合は、しっかりと言われた通りに摂取しましょう。
インピンジメントをしっかり治すとともに再発を予防するためには、痛み等の症状が発生しないように気をつけながら、同時にストレッチやリハビリエクササイズを行なっていく必要があります。
肩関節インピンジメント症候群の改善・予防のために、Seitzら6は以下の5項目に関する対策を行うべきである、と示しています。
- 「小胸筋」の硬さを取り除く
- 「肩関節の後ろ側」の硬さを取り除く
- 「胸椎」の動きを良くする
- 「肩甲骨の動きに関係する筋肉」を活性化させる
- 「肩関節のインナーマッスル」を活性化させる
ここから、これら5項目を改善するためのストレッチとリハビリエクササイズをお伝えします。
インピンジメント対策ストレッチ3選
まずは、肩の動きを悪くしている筋肉などの硬さを取り除くストレッチを行います。
1)コーナーストレッチ(小胸筋ストレッチ)
まず行うべきは、Seitzらが提唱した5項目の1つ目「小胸筋(しょうきょうきん)」の硬さを取るストレッチです。
小胸筋の硬さは肩甲骨の動きを悪くするため、肩の上げ下げの動きも同様に悪くなり、結果インピンジメントが起こりやすい状態になります。
Borstad and Ludewig7は、3種類の小胸筋ストレッチを比較した研究を行いました。結果、小胸筋の長さが一番改善されたのがこの「コーナーストレッチ」でした。
- 肘を90度に曲げ、肘を肩の高さまで上げたところで、壁やドアの角に肘~手を置きます。
- 肩関節の前側~胸にかけてストレッチを感じるところまで、ゆっくりと前側に体重をかけていきます。
- ストレッチ感を感じたところで30秒ほどキープしてストレッチしましょう。
過去に肩を脱臼したことがある場合、このストレッチは脱臼しやすいポジションでもあるため注意が必要です。痛みを感じるほどに伸ばす必要はないので、快適に感じる程度でストレッチを行いましょう。
2)スリーパーストレッチ(肩関節後面ストレッチ)
Seitzらが提唱した5項目の2つ目「肩関節の後ろ側」の硬さを効果的に取ることができるのが「スリーパーストレッチ」です。
- 横向きになり、肘を90度に曲げて肩の高さやや下に置きます。
- 肩が床から浮かないようにしながら、ゆっくりと手を地面に向かって下ろしていきます。
- 肩関節後部にストレッチ感を感じたところで30秒ほどキープしましょう。
肩関節に硬さがある方は、手を少し地面に下ろしただけでかなりストレッチ感を感じるはずです。いきなり強く手を下ろしすぎると痛めてしまう恐れがあるので、ゆっくり行いましょう。
3)僧帽筋上部ストレッチ
首、肩、背中にかけて存在する、非常に大きな筋肉である「僧帽筋(そうぼうきん)」は、改善すべき5項目の4番目「肩甲骨の動きに関係する筋肉」の1つです。
僧帽筋はその大きさから、上部線維、中部線維、下部線維と分けてストレッチやエクササイズを行う必要があるのですが、インピンジメント対策としてストレッチを行いたいのは「僧帽筋の上部線維」になります。
首から肩にかけて走る僧帽筋の上部線維は、使いすぎてしまうとインピンジメントを引き起こることがわかっています。よって、ストレッチをして使いすぎの筋肉を落ち着かせましょう。
- 片手を腰の後ろにあて、もう一方の手は、手と反対側の耳の上あたりにあてます。
- 腰の後ろに手をあてている側の肩をリラックスさせながら、頭を逆側に傾けます。
- 手で頭を引っ張り過ぎないように注意し、ストレッチ感を感じた所で30秒キープしましょう。
頭を傾ける角度を変えることで、首や肩の他の筋肉もストレッチすることができます。時間があればぜひお試しください。
インピンジメント改善のためのリハビリエクササイズ5選
肩関節の動きを阻害している筋肉の硬さを取ったら、次はリハビリエクササイズを行なって、肩の動きの改善や筋力アップを目指していきます。
1)Side-lying Windmill(胸椎エクササイズ)
インピンジメント対策として改善すべき5項目の3つ目「胸椎(きょうつい)」の動きを良くするエクササイズです。「Side-lying=横向きに寝る」「Windmill=風車」という意味であり、腕を風車のように大きく回すエクササイズです。
猫背をはじめとした不良姿勢を続けていると、胸椎(=胸の位置にある背骨)の動きが悪くなります。胸椎が正しいポジションでないと肩関節の可動域は低下するため、その状態で無理に何度も肩を動かすことで、インピンジメントを引き起こしてしまいます。
- 横向きに寝て、天井側の股関節と膝を90度に曲げ、足を地面に置きます。
- 両腕を伸ばしたところから、天井側の手のみ大きな円を描くようにゆっくり動かしていきます。
- 10回大きく円を描いたら、反対の腕でも行いましょう。
曲げている方の脚が地面から離れないように腕を回すことが大切です。胸椎から動いていることをイメージして行いましょう。
2)ウォールスライド(前鋸筋・僧帽筋下部エクササイズ)
肩甲骨の動きに関係する筋肉の中でも、インピンジメント対策として特に重要な筋肉が「前鋸筋(ぜんきょきん)」と「僧帽筋の下部繊維」になります。そして、これら2つの筋肉を効果的に鍛えることができるのが「ウォールスライド」と呼ばれるエクササイズになります。
- 壁から20cmほど離れた場所で、壁に向かって立ちます。
- スポーツタオルを壁にあて、タオルが落ちないように肘で押さえます。
- 肘でタオルを壁に押し付けながら、タオルを上に滑らせます。
- 肘が目線の高さくらいまできたら、同じくタオルを壁に押し付けながら下に滑らせてきて戻します。
- 10回繰り返します。
肘で壁を押しながら腕を持ち上げることで、上記した2つの筋肉が活性化していきます。上げれば上げるほど肘が壁から離れやすくなるので、意識して行いましょう。
3)Prone ER(インナーマッスルエクササイズ)
肩関節のインナーマッスルの活性化にとても効果的なエクササイズです。
「Prone(プローン)=うつ伏せ」という意味で、「ER」は「External Rotation」の頭文字をとったもので、意味は「外旋」となります。つまり、うつ伏せに寝た状態で肩関節を外旋させるエクササイズ、となります。
- ベッドやソファーなど、少し高さのある場所にうつ伏せになり、トレーニングする側の腕を外側に下ろします。
- 肘を90度に曲げ、肩をベッドやソファーから少し浮かせて肩甲骨と同じ高さにします。
- 肩と肘の位置を変えないようにして、手を上に持ち上げます。
エクササイズの動きが投球動作に似ているため、投球動作を行う方はぜひリハビリエクササイズの1つとして取り入れるべきでしょう。
4)T(僧帽筋中部・下部エクササイズ)
インピンジメントを防ぐために、僧帽筋の上部線維は使いすぎないことが大切であるということを前述しました。
T(ティー)というエクササイズは、McCabeらの研究8によって「僧帽筋中部・下部の活性化具合と、僧帽筋上部の抑制具合がベストな割合である」ということが示されています。
つまり、肩を動かす上で、僧帽筋の上部線維を使いすぎずに、しっかりと中部線維と下部線維を活性化させることを体に覚えさせる上ですごく効果的なエクササイズとなります。
- うつ伏せになり、両手を肩の高さまで左右に持ち上げ、親指を天井に向けます。
- 肩が耳の方向に持ち上がらないように注意しながら、肩甲骨同士を内側に寄せるイメージで床から手を持ち上げます。
- 2~3秒キープしたら、ゆっくり床に下ろします。
- 10~20回行いましょう。
5)プッシュアップ・プラス(前鋸筋・インナーマッスルエクササイズ)
肩甲骨を動かす筋肉と肩関節のインナーマッスルを同時に鍛えることができるエクササイズです。
2)で紹介したウォールスライドでも前鋸筋は鍛えられますが、プッシュアッププラスでは自分の体重が肩関節に負荷としてかかるため、より難易度の高いトレーニングと言えます。
また棘下筋は、腕を持ち上げる動作の際に、腕の骨を正しいポジションにキープしてくれる重要なインナーマッスルの1つです。このエクササイズでしっかり活性化していきましょう。
- 腕立て伏せのポジションをとります。
- 肘を伸ばしたまま、両手で地面をグッと押して、肩甲骨と肩甲骨の間を天井側に持ち上げます。
- リラックスするときは、肩甲骨同士を内側に寄せていきます。
- 10~20回繰り返しましょう。
動作やフォームの修正・改善にはNEXPORTがオススメ
過去インピンジメントになってからずっと肩の調子が思わしくないという方や、再発してしまったという方は、上記したような「姿勢の悪さ」や「筋力のアンバランス」の改善を行うとともに、肩を上げる動作そのものや、投球フォーム等の見直しが必要かもしれません。
動きの修正や、フォーム改造といったものは、やはり専門家に指導を受けるのが一番効率的です。NEXPORTでは、医師、理学療法士、アスレティックトレーナー、ストレングスコーチなど、多領域の専門家が協力して、一人ひとりに合ったオーダーメイドのプログラムを提供しております。
「大事な試合が控えているからインピンジメントをできるだけ早く治したい」
「日常生活や仕事で肩が上がらなくて困っている」
「怪我を治すことはもちろん、パフォーマンスも上げたい」
インピンジメントを治したいという方はもちろん、肩の痛みでお困りの方はぜひお気軽にNEXPORTをご利用ください。
まとめ
肩関節のインピンジメント症候群の概要から、ストレッチとリハビリエクササイズを紹介しました。
今回の記事では紹介していませんが、リハビリエクササイズを痛みなく大きな可動域でできるようになったら、チューブ等を利用して負荷を高めたり、ダンベルのような重りを持ったトレーニングを行なっていくことになります。
少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
- Consigliere P, Haddo O, Levy O, Sforza G. Subacromial impingement syndrome: management challenges. Orthop Res Rev. 2018;10:83-91. Published 2018 Oct 23. doi:10.2147/ORR.S157864
- Creech JA, Silver S. Shoulder Impingement Syndrome. [Updated 2021 Jul 26]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2021 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK554518/#
- Cools AM, Declercq G, Cagnie B, Cambier D, Witvrouw E. Internal impingement in the tennis player: rehabilitation guidelines. Br J Sports Med. 2008;42(3):165-171. doi:10.1136/bjsm.2007.036830
- Hébert LJ, Moffet H, Dufour M, Moisan C. Acromiohumeral distance in a seated position in persons with impingement syndrome. J Magn Reson Imaging. 2003;18(1):72-79. doi:10.1002/jmri.10327
- Garving C, Jakob S, Bauer I, Nadjar R, Brunner UH. Impingement Syndrome of the Shoulder. Dtsch Arztebl Int. 2017;114(45):765-776. doi:10.3238/arztebl.2017.0765
- Seitz AL, McClure PW, Finucane S, Boardman ND 3rd, Michener LA. Mechanisms of rotator cuff tendinopathy: intrinsic, extrinsic, or both?. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2011;26(1):1-12. doi:10.1016/j.clinbiomech.2010.08.001
- Borstad JD, Ludewig PM. Comparison of three stretches for the pectoralis minor muscle. J Shoulder Elbow Surg. 2006;15(3):324-330. doi:10.1016/j.jse.2005.08.011
- McCabe RA, Orishimo KF, McHugh MP, Nicholas SJ. Surface electromygraphic analysis of the lower trapezius muscle during exercises performed below ninety degrees of shoulder elevation in healthy subjects. N Am J Sports Phys Ther. 2007;2(1):34-43.